01 ― きっかけ
この子が来院した目的は避妊手術でした。ですが術前の診察で、両方の鼻の穴が内側に折れ込むように狭くなっていることに気がつきました。フレンチ・ブルドッグやパグ、ボストン・テリアといった「鼻ぺちゃ」な犬種(短頭種)では、こうした鼻の狭さがめずらしくありません。
「いびきをかく」「寝ているとき苦しそう」「ちょっと動くとすぐ息が荒くなる」――短頭種を飼っている方にはおなじみの光景かもしれませんが、実はこれ、犬にとって毎日ずっと息苦しさを抱えている状態のことがあります。
02 ― 短頭種気道症候群(BOAS)について
鼻の穴が狭い(鼻腔狭窄)、のどの奥のやわらかい部分が長い(軟口蓋過長)、気管そのものが細い――これらが単独、あるいは組み合わさって起こる呼吸のしづらさを、まとめて「短頭種気道症候群(BOAS)」と呼びます。生まれつきの体の構造によるものなので、しつけや体重管理だけでは解決しません。
放っておくと、呼吸の頑張りすぎが喉の炎症を招き、さらに呼吸がしづらくなるという悪循環に陥ることがあります。暑い時期の熱中症リスクが高いのも、この構造が関係しています。
03 ― 避妊手術にあわせて行った理由
気道の形成術には全身麻酔が必要です。すでに避妊手術で全身麻酔をかけるタイミングだったため、麻酔・入院を分けて何度も体に負担をかけるより、同じ麻酔の機会にまとめて対応する方が、この子にとっても飼い主さまにとっても負担が少ないと判断しました。
当日行った処置
- 卵巣子宮全摘出術(避妊手術)
- 鼻腔拡大術 ― 狭くなっていた鼻の穴(鼻孔)を広げる処置
- 軟口蓋切除術 ― のどの奥のやわらかい部分を短くする処置
04 ― 鼻腔拡大術:術前と術後
鼻の穴の内側に折れ込んでいた部分(鼻翼)を、空気の通り道が確保できるよう形を整えました。見た目の変化として、鼻の穴の開き方の違いがわかります。
05 ― 軟口蓋短縮術:術後の様子
のどの奥で気道をふさぎがちだった軟口蓋を短くし、空気の通り道を広げました。
06 ― 飼い主さまへ
「うちの子はこういう顔立ちだから」「昔からいびきをかいているから」と、短頭種特有の呼吸音を個性として見過ごしてしまうことは少なくありません。ですが、いびきや荒い呼吸の裏に、鼻や喉の狭さが隠れていることがあります。
避妊・去勢手術やその他の診察の際に、気になる呼吸の様子があれば、遠慮なくお声がけください。麻酔の機会を活用して、まとめて対応できる場合もあります。