今回ご紹介するのは、長年クッシング症候群(副腎皮質機能亢進症)の治療を続けている13歳のチワワの子のケースです。定期的な検査の中で見つかった副腎の腫れが、実際には何だったのか。診断から手術、そして結果までの経過をまとめました。
01きっかけ
このワンちゃんは、以前からクッシング症候群と蛋白漏出性腸症(お腹の中でタンパク質が漏れ出てしまう病気)の治療を続けていました。定期的な血液検査やエコー検査で経過を見守っていたところ、右側の副腎に比較的大きめの腫れがあることが分かりました。
超音波検査に加えてCT検査でも詳しく調べたところ、腫瘤のような像がはっきりと確認され、「腫瘍の可能性がある」という判断に至りました。
02手術に踏み切るまで
この子の場合、単純に「腫瘍を摘出すればよい」というわけにはいきませんでした。持病である蛋白漏出性腸症の影響で、血液中のアルブミンや総蛋白の値が下がりやすい状態だったためです。これらのタンパク質は、手術の傷の治りや麻酔への耐性に深く関わります。
そこで、内服薬(ゼンダコート)による腸症の管理を続けながら、アルブミン・総蛋白の値がしっかり正常範囲に戻るのを待ってから、手術の日を決めました。持病を抱えるシニア犬の手術では、「いつ手術をするか」の判断そのものが治療の重要な一部になります。
03手術当日
丁寧な導入と維持管理
前投薬・導入・維持のそれぞれの段階で、この子の体調に合わせた薬剤を選択。手術中は輸液とあわせて、循環をサポートする薬剤を継続的に投与しました。
右副腎の摘出、あわせて脾臓も摘出
お腹を開け、腸や周囲の組織を傷つけないよう慎重に副腎へアプローチ。超音波の力で組織を切開・凝固する器具(ソノサージ)を使い、腫れていた副腎を摘出しました。検査の際に大きめの腫れが見つかっていた脾臓も、同時に摘出しています。手術時間は1時間36分でした。
回復のための集中管理
術後は輸液や鎮痛剤に加え、抗生剤・炎症を抑える薬・吐き気止め・止血剤を投与し、体の回復を細やかにサポートしました。
04結果 ― 病理検査でわかったこと
摘出した副腎と脾臓は、専門の検査機関で病理組織検査(顕微鏡で組織を詳しく調べる検査)にかけました。そして届いた結果は、ご家族にとって何より安心できるものでした。
病理検査の結果
副腎に見られた腫れは「副腎皮質過形成」という、腫瘍ではない良性の変化であることが分かりました。脾臓の腫れも、腫瘍ではなく血液のうっ滞と、体内で赤血球が作られる働き(髄外造血)によるものと判明しました。いずれも、がんなどの腫瘍性の変化は認められませんでした。
05この症例から伝えたいこと
超音波やCTなどの画像検査は、体の中の異常をいち早く見つけるための、とても大切な手がかりです。ただし、画像だけでは「腫瘍かどうか」を100%確定することはできません。今回のケースのように、画像上は腫瘍を強く疑う所見であっても、実際には治療で管理できる良性の変化だったということも起こり得ます。
だからこそ当院では、画像検査・血液検査・そして必要に応じた手術と病理検査を組み合わせ、慎重に一つひとつの可能性を確かめながら診療を進めています。特に持病を抱えるシニア犬の場合は、手術のタイミングそのものを含めて、体への負担をできる限り抑える計画を立てることを大切にしています。
この症例のポイント
- 持病(クッシング症候群・蛋白漏出性腸症)を抱えるシニア犬の外科治療
- 血液データが安定するのを待ってから手術時期を決定
- 画像検査での「腫瘍疑い」と、病理検査による「確定診断」の違い
- 摘出した副腎・脾臓はいずれも良性の変化と判明