いわせ犬猫クリニック 院長 岩瀬英一郎
| 年齢 | 13歳(シニア期) |
| 犬種・性別 | ポメラニアン・メス(避妊済) |
| 既往歴 | 僧帽弁閉鎖不全症(心疾患/内服治療中) |
| 主訴 | 定期健診(腹部超音波検査)での右側副腎腫大の偶発的発見 |
| 対応 | 開腹下 右側副腎摘出術を実施 |
今回ご紹介するわんちゃんは、以前から心臓の持病(僧帽弁閉鎖不全症)に対してお薬での治療を続けながら、穏やかに暮らしていました。普段から元気や食欲に目立った変化はありませんでしたが、当院で定期的に実施しているシニア健診の腹部エコー(超音波)検査において、右側の副腎が通常よりも大きく腫大していることが確認されました。
副腎は腎臓の近くにあるごく小さな臓器ですが、生命維持に不可欠なホルモンを分泌する重要な役割を担っています。
シニア期で心疾患を抱えるわんちゃんにとって、全身麻酔を伴う開腹手術は決して小さな決断ではありません。しかし、以下の理由から慎重に検討を重ねました。
ご家族に現状のリスクと手術の意義を丁寧にお伝えし、十分にご相談を重ねた上で、根本治療を目的とした副腎摘出手術を実施する運びとなりました。
シニア期や基礎疾患を抱える動物の手術では、事前のリスク洗い出しと準備が成功の鍵を握ります。当院では「思いついたらすぐ」ではなく、「綿密な準備を重ねてから」手術に臨みます。
副腎の摘出手術は、太い血管のすぐそばでの繊細な操作が求められる難易度の高い手術です。また、今回は心臓病への配慮も欠かせません。
幸いにも懸念された合併症はなく、術後2日目には自力でしっかりと食事を食べられるようになり、表情にも活気が戻りました。
また、摘出された副腎の病理組織検査結果は「副腎皮質腺腫(良性)」であり、血管内への浸潤もなく完全に切除されていることが確認され、ご家族とスタッフ一同、胸を撫で下ろしました。
その後も数値が安定していることを確認し、術後5日目に無事退院の運びとなりました。片側の副腎を残しているため、生涯にわたるホルモン剤の内服も必要ありません。現在は定期的な心臓病の検診とお薬を継続しながら、手術前と変わらない軽快な足取りで通院してくれています。診察室でスタッフを見つけると嬉しそうに尻尾を振ってくれる姿が、医療チームにとって何よりの喜びです。
ハイシニアや基礎疾患のある動物への麻酔・手術には、確かに相応のリスクが伴います。しかし、病気を放置することで将来起きる急変のリスクと、今手術を行うメリットを正しく天秤にかけ、綿密な術前評価と万全の周術期管理を行えば、安全に根本治療を乗り越えられるケースは数多くあります。
当院では、年齢や持病だけを理由に治療の選択肢を最初から狭めることはいたしません。その子の「いまの全身状態」を正確に把握し、ご家族にとって最善の選択肢を一緒に考えてまいります。
※本記事は実際の症例をもとに、プライバシーに配慮して一部内容を調整して構成しています。