Case Report — 症例レポート

猫の尿石症・尿道閉塞に対する
会陰尿道瘻造設術

重度の尿石症で尿道が詰まってしまった、1歳未満の若い男の子の治療経験

いわせ犬猫クリニック 院長 岩瀬英一郎

01

患者情報・主訴および経過

品種・年齢・性別
雑種猫(室内飼い) / 0歳11ヶ月齢 / 雄(今回の手術時に去勢) / 体重 4 kg
主訴・来院理由
「尿が出ない」との主訴にて来院。
検査および診断
超音波(エコー)検査で、膀胱内に結晶や砂粒状の結石と考えられる浮遊物が多数認められ、尿石症による尿道閉塞と診断しました。血液検査では腎臓の数値やカリウム値に大きな異常はなく、腎臓に重い負担がかかる前に治療に進むことができました。重度の尿石症で再閉塞のリスクが高いことから、外科的治療(会陰尿道瘻造設術)を実施いたしました。
膀胱内に多数の浮遊物を認めた超音波画像
膀胱の超音波(エコー)画像

黒く見える膀胱の中に、白く光る粒がたくさん浮かんでいます。これが尿中の結晶や小さな結石で、尿道に流れ込むと詰まりの原因になります。

血液検査の結果
腎臓の数値

BUN 18.3 mg/dL、クレアチニン 1.36 mg/dLと正常範囲。尿が出ないことによる腎臓への影響は認められませんでした。

カリウム値

K 3.8 mEq/Lと正常。尿道閉塞で危険なのがカリウムの上昇ですが、心臓への影響が出る前の段階でした。

脱水の所見

ヘマトクリット 51.6%、ナトリウム 158 mEq/Lとやや高値で、軽度の脱水を示す変化でした。肝臓などその他の項目に大きな異常はありません。

02

手術を選択した理由

雄猫の尿道閉塞は、体の構造上くり返しやすい病気です。飼い主様とご相談のうえ、根本的に詰まりにくくする手術を選択しました。

雄猫の尿道は細い

陰茎の先端に近い部分の尿道がとても細く、結晶や小さな結石が引っかかりやすい構造です。

再閉塞のリスク

膀胱内に多量の結晶・結石が残っており、詰まりを解除しても再び閉塞する危険が高い状態でした。

会陰尿道瘻造設術とは

細い陰茎部の尿道を切除し、太い骨盤部の尿道を会陰部に開口させる手術です。尿の出口が広がり、詰まりにくくなります。

手術前の会陰部の外観
手術前の外観

毛刈りと消毒を行った手術直前の会陰部です。便による汚染を防ぐため、肛門には一時的に巾着縫合をかけています。

03

麻酔管理と手術

尿道閉塞は腎臓や心臓にも負担がかかる病気です。全身状態に配慮した麻酔管理のもと、2026年10月に手術を行いました。

1
麻酔導入・術中管理

アトロピン、フェンタニル、ミダゾラムで前投薬を行い、プロポフォールでスムーズかつ安全に導入。術中はソルアセト点滴による輸液管理に加え、フェンタニルCRI(持続投与)で麻酔中の痛みをしっかり抑えました。

2
手術体勢

うつ伏せで骨盤を高くし、尾を前方に固定した体勢で行いました。会陰部を正面から確実に視野に入れるための体勢です。

3
手術

細い陰茎部の尿道を切除し、骨盤部の太い尿道を会陰部の皮膚に縫い合わせて、新しい尿の出口をつくりました。あわせて去勢手術も同時に行いました。麻酔時間は約1時間30分でした。

4
術中モニタリング

心電図、心拍数、呼吸数、血中酸素飽和度(SpO2)、体温を継続的に監視しました。手術中のSpO2は100%を維持し、酸素と医療用空気を混合した吸入気(吸入酸素濃度69%)で呼吸を管理しました。体の小さな猫は手術中に体温が下がりやすいため、保温を行いながら管理しました(36.7℃→35.7℃)。

麻酔記録(15分ごとの生体情報)
2026年10月15日 20:45〜22:15
項目 20:45 21:00 21:15 21:30 21:45 22:00 22:15
心拍数(回/分)161159213127177199166
脈拍数(回/分)148152149169172199126
呼吸数(回/分)10101010101010
SpO2(%)10010010010010010092
吸入酸素濃度(%)69696969696969
体温(℃)36.736.736.536.336.135.935.7

日本光電の生体情報モニターで記録した定時記録です。手術中は酸素化・循環ともに安定して経過しました。

うつ伏せで骨盤を高くした手術体勢
手術時の体勢 うつ伏せで骨盤を高くし、各種モニターを装着した状態です。
手術直後の会陰部の外観。新しい尿の出口に尿道カテーテルを留置
手術後の外観 会陰部に新しくつくった尿の出口です。傷が落ち着くまで尿道カテーテルを留置して管理します。
04

術後管理と今後のケア

手術で詰まりにくくはなりますが、尿石症そのものが治ったわけではありません。術後のケアと再発予防が大切です。

傷口の保護

傷が落ち着くまでエリザベスカラーを着用し、患部を舐めないようにします。

定期的な尿検査

尿の出口が広がる一方で細菌が入りやすくなるため、尿路感染がないかを定期的に確認します。

再発予防

療法食と十分な飲水で、結晶や結石ができにくい尿の状態を保ちます。

術後の経過

術後は新しい尿の出口に尿道カテーテルを留置して傷口を守り、フィジオ140の点滴で全身状態と尿量を管理しました。術後1週間で自力での排尿を確認し、退院となりました。

手術当日
会陰尿道瘻造設術
術後1週間
自力排尿を確認・退院
SUMMARY — まとめ

「おしっこが出ない」は、
雄猫にとって命に関わる緊急事態です。

01
若い猫でも起こります

今回は1歳未満。年齢に関係なく、雄猫は尿道閉塞を起こしやすい体の構造をしています。

02
1〜2日で命に関わります

尿が出ないと老廃物やカリウムが体にたまり、腎臓や心臓に大きな負担がかかります。

03
くり返す場合は手術も

再閉塞のリスクが高い場合は、尿の出口を広げる会陰尿道瘻造設術が有効な選択肢です。

当院では、緊急の閉塞解除から外科治療まで院内で一貫して対応し、万全の麻酔管理・術後ケア・再発予防までサポートしています。

何度もトイレに行くのに尿が出ていない、トイレで鳴く・いきむ——
そんな時は、様子を見ずにすぐご相談ください。

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