Case Report — 症例レポート

仔猫の電気コード誤飲に対する
胃内異物摘出術

かじって細かくなった電気コードを大量に飲み込んでしまった、生後4ヶ月の仔猫の治療経験

いわせ犬猫クリニック 院長 岩瀬英一郎

01

患者情報・主訴および検査

品種・年齢・性別
スコティッシュ・フォールド(室内飼い) / 生後4ヶ月齢 / 雄 / 体重 1.7 kg
主訴・来院理由
「電気コードを誤飲した」とのことで来院。
検査および診断
レントゲン検査で、胃の位置に細い線状の金属陰影が絡まり合うように多数認められ、電気コードによる胃内異物と診断しました。コード内部の銅線はX線を通さないため、白くはっきりと写ります。量が多く自然に排出される見込みはないと判断し、来院当日の深夜に緊急で摘出手術を実施しました。
術前のレントゲン写真(腹背像)。胃の位置に絡まった線状の金属陰影
術前レントゲン(お腹側から) お腹の左上、胃の位置に白い糸くずのような影が密集しています。これが飲み込まれたコードの銅線です。
術前のレントゲン写真(側面像)。胃の中にコードの塊
術前レントゲン(横から) 肝臓のすぐ後ろ、胃の中にコードが塊になって詰まっている様子がわかります。
02

手術を選択した理由

小さなものであれば便と一緒に出てくることもありますが、今回は量・形状ともに自然排出は望めず、時間がたつほど危険が増す状態でした。飼い主様とご相談のうえ、開腹手術による摘出を選択しました。

量が多く、自然に出てこない

胃の中でコード片が絡まり合って塊になっており、体の小さな仔猫の細い腸を通過することはできません。

腸閉塞・腸の損傷の危険

腸へ流れると詰まって腸閉塞を起こすほか、細長い異物は腸をたぐり寄せて傷つけ、穴があく(穿孔)こともあります。

鋭い切断面

噛みちぎられたコードの端からは細い銅線がむき出しになっており、胃や腸の粘膜を傷つけるおそれがあります。

03

麻酔管理と手術

生後4ヶ月の仔猫は体が小さく、麻酔中に血圧や体温が下がりやすいため、より慎重な管理が必要です。生体情報モニターで全身状態を確認しながら、2026年10月に夜間の緊急手術を行いました。

1
麻酔導入・術中管理

アトロピン、フェンタニル、ミダゾラムで前投薬を行い、プロポフォールでスムーズかつ安全に導入。術中はイソフルランによる吸入麻酔(酸素と医療用空気を2:1で混合)で維持し、ソルアセト点滴による輸液管理に加え、フェンタニルCRI(持続投与)で麻酔中の痛みをしっかり抑えました。

2
手術(胃切開術)

お腹を開いて胃を切開し、胃の中のコード片をひとつ残らず取り出しました。摘出後は、胃から腸にかけてコードが流れ出ていないかを確認し、胃とお腹を縫い閉じました。

3
術中モニタリング

心拍数、呼吸数、血圧、血中酸素飽和度(SpO2)を継続的に監視しました。麻酔の序盤に一時的な血圧の低下(平均血圧 41〜55 mmHg)がみられましたが、その後回復し、平均血圧 100〜131 mmHgで安定しました。SpO2は手術を通して94〜100%を維持しています。

麻酔記録(生体情報モニターの記録)
2026年10月26日 2:17〜2:57
項目 2:17 2:23 2:28 2:30 2:36 2:43 2:50 2:57
心拍数(回/分) 169 156 172 171 179 168 163 160
平均血圧(mmHg) 50 41 49 71 131 100 — —
呼吸数(回/分) 10 10 10 10 10 10 10 10
SpO2(%) 100 100 100 100 99 100 95 100

日本光電の生体情報モニターで記録した値の抜粋です(「—」は血圧の測定なし)。麻酔時間は約40分でした。

胃から摘出した、細かく噛みちぎられた黒い電気コード片
胃から摘出したコード

数センチずつに噛みちぎられた黒い電気コードが、数十本も胃の中に溜まっていました。切り口からは内部の銅線がのぞいています。仔猫が少しずつかじって飲み込み続けた結果、これだけの量になったと考えられます。

04

術後管理と今後のケア

胃を切開した後は、傷の回復に合わせて少しずつ食事を戻していきます。そして何より大切なのが、同じ誤飲をくり返さないための環境づくりです。

食事の再開

胃の縫い目に負担をかけないよう、消化の良い食事を少量から始め、吐き気や食欲を確認しながら段階的に戻します。

傷口の保護

お腹の傷が落ち着くまでエリザベスカラーや術後服を着用し、傷を舐めないようにします。

再発予防

コード類にはカバーをつけるか家具の裏へまとめ、留守中や夜間は届かない部屋・ケージで過ごさせるなどの対策をお願いしています。

術後の経過

術後はフェンタニルを加えたフィジオ140の点滴で痛みと全身状態を管理し、抗生物質と消炎剤の注射を行いました。術後の経過は良好で、元気・食欲ともに順調に回復し、術後7日で退院となりました。

手術当日(夜間)
胃切開・異物摘出術
術後7日
経過良好・退院
SUMMARY — まとめ

仔猫の「かじる」は、
命に関わる誤飲につながります。

01
歯の生え変わり期は要注意

生後3〜6ヶ月頃は歯がむずがゆく、何でもかじりたくなる時期。コードや紐は格好の遊び道具になってしまいます。

02
感電と誤飲、二重の危険

電気コードは、かじれば口のやけどや感電、飲み込めば腸閉塞の原因に。少量ずつでも、胃の中で溜まっていきます。

03
「届かない」が一番の予防

コードカバー、配線の整理、目を離すときのケージ利用など、そもそも口にできない環境をつくることが大切です。

当院では、緊急の画像診断から外科手術まで院内で一貫して対応し、体の小さな仔猫の麻酔管理・術後ケアまでしっかりサポートしています。

コードや紐をかじった跡がある、吐く・食欲がない——
そんな時は、様子を見ずにすぐご相談ください。

03-3871-3122
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