小さなものであれば便と一緒に出てくることもありますが、今回は量・形状ともに自然排出は望めず、時間がたつほど危険が増す状態でした。飼い主様とご相談のうえ、開腹手術による摘出を選択しました。
胃の中でコード片が絡まり合って塊になっており、体の小さな仔猫の細い腸を通過することはできません。
腸へ流れると詰まって腸閉塞を起こすほか、細長い異物は腸をたぐり寄せて傷つけ、穴があく(穿孔)こともあります。
噛みちぎられたコードの端からは細い銅線がむき出しになっており、胃や腸の粘膜を傷つけるおそれがあります。
生後4ヶ月の仔猫は体が小さく、麻酔中に血圧や体温が下がりやすいため、より慎重な管理が必要です。生体情報モニターで全身状態を確認しながら、2026年10月に夜間の緊急手術を行いました。
アトロピン、フェンタニル、ミダゾラムで前投薬を行い、プロポフォールでスムーズかつ安全に導入。術中はイソフルランによる吸入麻酔(酸素と医療用空気を2:1で混合)で維持し、ソルアセト点滴による輸液管理に加え、フェンタニルCRI(持続投与)で麻酔中の痛みをしっかり抑えました。
お腹を開いて胃を切開し、胃の中のコード片をひとつ残らず取り出しました。摘出後は、胃から腸にかけてコードが流れ出ていないかを確認し、胃とお腹を縫い閉じました。
心拍数、呼吸数、血圧、血中酸素飽和度(SpO2)を継続的に監視しました。麻酔の序盤に一時的な血圧の低下(平均血圧 41〜55 mmHg)がみられましたが、その後回復し、平均血圧 100〜131 mmHgで安定しました。SpO2は手術を通して94〜100%を維持しています。
| 項目 | 2:17 | 2:23 | 2:28 | 2:30 | 2:36 | 2:43 | 2:50 | 2:57 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 心拍数(回/分) | 169 | 156 | 172 | 171 | 179 | 168 | 163 | 160 |
| 平均血圧(mmHg) | 50 | 41 | 49 | 71 | 131 | 100 | — | — |
| 呼吸数(回/分) | 10 | 10 | 10 | 10 | 10 | 10 | 10 | 10 |
| SpO2(%) | 100 | 100 | 100 | 100 | 99 | 100 | 95 | 100 |
日本光電の生体情報モニターで記録した値の抜粋です(「—」は血圧の測定なし)。麻酔時間は約40分でした。
数センチずつに噛みちぎられた黒い電気コードが、数十本も胃の中に溜まっていました。切り口からは内部の銅線がのぞいています。仔猫が少しずつかじって飲み込み続けた結果、これだけの量になったと考えられます。
胃を切開した後は、傷の回復に合わせて少しずつ食事を戻していきます。そして何より大切なのが、同じ誤飲をくり返さないための環境づくりです。
胃の縫い目に負担をかけないよう、消化の良い食事を少量から始め、吐き気や食欲を確認しながら段階的に戻します。
お腹の傷が落ち着くまでエリザベスカラーや術後服を着用し、傷を舐めないようにします。
コード類にはカバーをつけるか家具の裏へまとめ、留守中や夜間は届かない部屋・ケージで過ごさせるなどの対策をお願いしています。
術後はフェンタニルを加えたフィジオ140の点滴で痛みと全身状態を管理し、抗生物質と消炎剤の注射を行いました。術後の経過は良好で、元気・食欲ともに順調に回復し、術後7日で退院となりました。