患者情報・発見のきっかけ
左上の犬歯(写真中央の白い歯)に、赤くふくらんだ歯ぐきがかぶさっています。ご家庭では唇をめくらないと気づきにくい場所です。
手術を選択した理由
今は痛がる様子がなくても、歯ぐきのしこりは少しずつ大きくなることがあります。飼い主様とご相談のうえ、小さいうちに切除し、組織を詳しく調べることにしました。
歯ぐきのしこりには良性のものから悪性腫瘍までさまざまな種類があり、見た目では区別できません。切除して病理検査を行うことで、正確な診断につながります。
盛り上がった歯ぐきと歯のすき間には汚れがたまりやすく、歯周病が進む原因になります。
大きくなると食事のたびに噛んでしまい、出血や感染を起こすことがあります。小さいうちに取るほど、体への負担も少なく済みます。
麻酔管理と手術
13歳と高齢で、さらにフレンチ・ブルドッグは鼻が短く呼吸の管理に注意が必要な犬種(短頭種)です。気管チューブで呼吸の通り道をしっかり確保し、全身状態を確認しながら手術を行いました。
アトロピン、フェンタニル、ミダゾラムで前投薬を行い、プロポフォールでスムーズかつ安全に導入しました。術中はイソフルランと酸素による吸入麻酔で維持し、ソルアセト点滴による輸液管理に加え、フェンタニルCRI(持続投与)で痛みをしっかり抑え、ドーパミンCRIで血圧を安定させました。
犬歯を残したまま、盛り上がった歯ぐきを付け根から切除しました。健康な歯ぐきはできるだけ残し、歯の根元をきれいに露出させています。
切除した組織は病理検査に提出し、しこりの正体を顕微鏡で詳しく調べます。
術後管理と今後のケア
今回のしこりは良性でしたが、このタイプはまれに同じ場所に再発することがあります。定期的にお口の中を確認しながら、経過を見守っていきます。
傷口が落ち着くまでは、やわらかいフードやふやかしたフードで、患部への刺激を減らします。
再発がないか、定期的にお口の中を確認します。早く見つかれば、それだけ小さな処置で済みます。
歯みがきで歯ぐきを清潔に保つことが、歯周病や歯ぐきのトラブルの予防につながります。
麻酔からの目覚めは良好で、抗生物質と消炎剤の注射を行い、手術当日に退院となりました。病理検査の結果は、歯を支える組織(歯根膜)から発生する良性の腫瘍「周辺性歯原性線維腫」(骨形成性エプリス)でした。悪性の所見はなく、切除により予後は良好と考えられます。